「ラスベガスのノン・プロフェッショナル(2)」 – 英語で喧嘩しよう –

昔、クラップスのテーブルでギャンブル好きの日本人Sさんに会った。そのSさんは、やはり賭けたのに、認めてもらえないのでトラブルになる。「俺は英語ができないんだ。」と言いながら大声で日本語のままクレームしている。

少しは助けてあげたが、こちらもSさんが正しいかどうか自信がないので、迫力がない。ディーラーもピットボスも主張をまったく取り上げてくれない。そもそも伝わっていない。
頭にきたSさんは大声で叫び、チップとダイスを遠くに投げつけて去ってしまった。そのアクションは凄かった、自己主張という観点では立派。周りの人からは「クレージー」という声が上がっている。しかし自分の主張を認めてもらえない以上、喧嘩に勝ったことにはならない。

ここからは前回のトピックの続き。

大トラブルになる前にピットボスにはさっさと登場して欲しいと思っていたので、腹立たしい。しかし、さすがにボスが来ると、怒りのディーラーも仕方ないという顔をしている。顛末は見ていたので、私は何も言わず「お代官様、公平なお沙汰を!」という感じで顔を見ていただけだが、何枚賭けたかを確認した後に、あっさり支払いを命じた。

その後ゲーム再開となったが、私は気分が悪いので、もちろん場を変えようと思っていた。ただ惰性というか何も考えず、いくつか賭けてしまったのだが、偶然にもそれが的中する。小さい配当であったが、それをきっかけにこのけしからんディーラーと勝負したくなった。

ルーレットには、あきらかに癖があり、円盤(ウィールという)の形状も色々な種類がある。例えばウィールの中にある山はドーム、外側はボウルと言ってそれぞれ傾斜が付いているが、ドームやボウルの傾斜角が浅いとハネる確立が高くなるし、深いとストンと落ちやすい。ボウル斜面にはピンが打たれているが、その位置が上の方にあると球の遠心力がない状態のときに当たるので、安定した落下になるが、下の方にあると加速度によってハネる度合いが強い。ボールポケットと呼ばれる穴も、深いものと浅いもので球の収まりが異なる。なにより、一番癖が出やすいのは人間の癖である。
上手いディーラー(こちらが予測し難いディーラー)は、球を色々なところにバランスを取って落とす。時計で表現すると、順番に12時、6時、3時、9時といった場所に落とすディーラーである。これは予測しにくい。体力的な問題もあると思うが、女性のディーラーは偏ったパターンが出易い。これは個人の感覚なので間違っているかもしれないが、許していただきたい。
投げるスピードとウィールの回転スピードも速い遅いがあり、投げてから球が落ちるまでにウィールが5回転以上回ると結構球は散らばる。4回転以下の場合は、(やはり早いよりは)予測し易い。女性のディーラーの場合、明らかに回転数は少なく、記録を取ると、偏りが出易い。よく隣の数字に落ちたりする。

ルーレット台には、台の横に電光掲示板が立ててあり、過去の的中数字が表示される。赤が非常に多いとか、奇数ばかり的中しているなど、以前のパターンがある程度読める。
先ほどディーラーが出した番号「25」を見ると、過去にも的中している。その次に的中した番号は「6」。試しに「6」とその両隣、また「25」の両隣に賭けると、見事に「6」が的中。不機嫌な顔で配当する彼女にチップをあげると、それが気に入らなかったのかまたまた怒り出し、唸りながらチップを無造作に投げ入れる。
人間、感情が高ぶっているときは、特に癖が出易い。緊張すると貧乏ゆすりが止まらなかったり、髪の毛を触りだすなど、人それぞれに癖がある。
怒ったまま球を投げると、またまた連続で「6」。私の勝ち分は増えるばかり。その次も隣の数字で的中、さすがに可愛そうになってきた。相変わらず不機嫌な彼女をマネージャはとうとう交代させた。感情のコントロールは本当に大切だ。

オチになるかどうかわからないが、チェンジマネジメントした後、語学ではハンデキャップがあるものの、冷静な日本人に戻った私が大勝利!
私は典型的な日本人で、とにかく表現が下手。西欧人からすると、無表情で何を考えているか最もわかりにくいタイプだろう。
喧嘩する場合、この表現の少なさは弱点になって、自己主張が弱くなる。笑われるかもしれないが、「怒ったフリをしなければ….」と考えながら交渉する場合が、日本にいるときより圧倒的に多い。そうでないと、相手に伝わらない。
私を含め語学力にハンディキャップがある日本人は、表現力と冷静さを武器に戦うしかない。
ちなみにビジネスで戦うポイントは何点かあると思うが、グローバルなプロセスや考え方を理解した上で、自分の強みが出せる土俵で戦うことが最も重要である。一例をあげると、(当たり前であるが、)日本についての知識や情報、自分の専門領域が勝負どころとなる。

ちなみにSAP社長時代の中根さん、怒ったときは、言葉少ない英語であっても、迫力満点。私の隣の大男のドイツ人がブルブル震えていた。

「ラスベガスのノン・プロフェッショナル(1)」 – 英語で喧嘩しよう –

コラムでカジノのプロフェッショナルを紹介したところ、好評をいただいた。

社外からのアクセスはほとんど無い状態と思っていたが、意外と見てくださっている。カジノが好きな人も少なくないこともわかり、安心した。別のカジノコラムを立ち上げた方がいいかもしれない。皆さん、自制心を持って楽しみましょう。
ハウスエッジ、つまり店のショバ代(取り分)はギャンブルの中では非常に低く、特にゲームによっては客側が有利なものすらある。私はこのハウスエッジの低いものしか手を出さない、2時間ぐらい腰を落ち着けて冷静に楽しめば、チャンスも巡ってきて、統計論ではハウスエッジに近づくのでそんなに負けないはずである。(一般的な実態としては、必ず負けるのでご注意。)

今回紹介するのは、前回と正反対、プロ失格のディーラーとマネージャである。
ゲームはやはりルーレット。多くの人が自分の好きな数字に賭けると思うが、私も予測できない状態の時は好きな数字に賭ける。いわゆるラッキーナンバーである。事件のあったときは17番とそのストリートベット(16、17、18の3つの数字をカバーする3目賭け)に賭けていた。17番には的中しなかったが、16に球は落ちた。オッズは12倍、確か2枚か3枚賭けていたと思う。好きな数字ばかりに落としてくれるほど神様は優しくないので、近辺のストリートベットやコーナーベット(4目賭け)を行うとリスクヘッジになる。的中したにもかかわらず、ディーラーが私の賭けていたチップを回収してしまったのがトラブルの始まり。大量のチップが台の上にあって、多くの客が入り乱れるとディーラーもなかなか大変、とても忙しい。抱えるように、ハズレチップと共に私のストリートベットを回収してしまったのだ。(所詮人間だから、こういった間違いは日常茶飯事。ボケッとしていて損をしている人は結構いると思う)
賭けていたことをクレームすると、最初は無視。再度主張すると、「本当か?」と疑っている。

外国人というと定義が広すぎるので、ここではアメリカ人とさせていただく。フランス人の交渉力と弁論能力はアメリカ人を凌駕すると思うが、アメリカ人も自己主張は強いのはご存知のとおり。空港等でトラブルになった場合、スタッフレベルでは融通が効かずマニュアルどおり処理されてしまう。時間もそんなにないので、諦めざるを得ない経験は何度かした。こちらも英語のハンディキャップもあるしトラブルになると、非常に手強い。
親切な姿はあくまでも彼らの余裕がある場合であると考えた方がよい。彼らは弱者に対しては優しいのである。弱い者いじめをしない教育を受けているから、こちらの立場を気遣ってくれる(ここは日本の教育現場と大違い)。ただしこれはある意味で対等な立場ではなく、日本人がナメられている場合があるので一概には喜べない。曖昧な日本人スマイルではいけない場合がビジネスにおいてもある(「ノー」と言えない日本人というのはこういう状況から生み出された言葉だと思う)。自分達の利害が関係してくると、態度は変わってくる。猛スピードで、スラングを交えて主張してくると、こちらは非常に不利な立場におかれる。

こういった場合、非常に重要なキーワードがあって、それは「フェア(fairness:公平)」というキーワードである。「それはアンフェアかもしれない」と言うと多くの場合、顔色が変わる。言葉もストップする。フェアというスタンスは彼らのプライドであるから、聞き捨てならないということになる。
そこで一旦チェンジペースというか、こちらの言葉を聴いてもらえる状態にして、論理的に主張する。英語もゆっくり喋ればよい。チェンジペースしないと、我々の3倍のスピードで主張されてしまうのだから勝てるわけが無い。上記の例のように英語が不得意な日本人ならではの喧嘩の仕方は、英会話教室では教えてくれない。異文化コミュニケーションにおいて悩んできた者の知恵である。

ノン・プロフェッショナルのディーラーの話に戻る。そのディーラーはポーカーフェースのディーラーとは違い、非常に感情を露わにする女性である。大柄で、ラテンアメリカ系の人だった。
しぶしぶ私の主張を認め配当を払うが、嫌がらせか、賭けた枚数は1枚で計算している。ストリートベットはオッズが低いので、1枚賭けることは絶対になく、最低でも2枚を自分の基準にしているため自信はある。
-「自分は最低でも2枚賭けるので、1枚はありえない。疑うのであればビデオを確認しろ。」(私)

-「何枚賭けたかもわからないのに、払えない」(ディーラー)

-「ダメ、ダメ」(ディーラー)

ディーラーは非常に不機嫌になって、こちらも気分が悪い。ピットクラーク(監視人)が2人のトラブルを見ている。頭の中は、どうやってチェンジペースにもっていくかで一杯だ。何枚賭けたかで争っていても埒があかない。出発点に戻るに限ると思った。
-「It was your fault fisrt, not my fault, wasn’t

「ラスベガスのプロフェッショナル」 – エンターテイメントを突き詰める –

当コラムでは、色々なプロフェッショナルを取り上げていきたい。ここではラスベガスに居たプロフェッショナルを紹介することにする。

ある年の年賀状にカジノ研究のことを書いたら、多くの方から反響があった。「何故細井がカジノ?」というコメントが多かったが、あの雰囲気が好きなんだから仕方ない。意外とハマッている人も少なくなく、凝った人は、各地のカジノで集めたチップを写真撮影して送ってきてくれた。    ギャンブルは、一般的に良い印象がないことは事実である。身を滅ぼすきっかけにもなるが、全ては自制心だ。この自制心は勝つためのポイントでもある。ようやく公式カジノの法案が準備され始めたが、未だ日本には公式カジノは存在しない。気持ちとしては微妙である。近くのカジノがあって欲しい反面、簡単に行くことができるようになると、少し自制の観点で恐ろしい。ギャンブルは快感物質を脳内に出すので、中毒症状を惹き起こし依存症を時に作り出してしまう。私自身、自制心は強い方であると思っているが、お台場等にカジノがオープンされると自信が揺らいでくる。これまで、日本の中ではギャンブルはやらない主義だった。

今回取り上げるのはラスベガスで遊んでいた時のこと。ゲームの種類はルーレットであった。そこそこ軍資金があったので、ミドルローラー(そこそこの掛け金をベットするプレイヤーのこと)レベルで遊んでいた。周りには小額のプレイヤーが多かったので、私が目立ったのかもしれない。また賭けに外れた時、たまたまピットボスの目についたのかもしれない。ピットボスとは、ディーラーの後ろでゲーム全体を監視するマネージャのことである。

雑談となり、「プロのディーラーは、落とすところをコントロールできるのか?」といった会話になった。シビアな国のカジノ、例えば韓国では考えられないことであるが、ショーンというピットボスは、私に笑顔を見せながら、ディーラーのブライアンに向って「Kazuoの番号に落とせ!」と言ってくれた。

Bryanはとても真面目そうで落ち着いた、シニアなディーラーである。無言ながらも頷いたので、私はゼロを示した。ゼロはディーラーが落としどころを練習する時に狙う場所と聞いていたからである。

いつもより心持ち慎重に、ルーレットの球を投げたような気がした。

最初の1投、球はゼロに落ちそうになった後、番号区切りのバーに当り、跳ねて5つ横の4番の数字へ落ちた。ルーレットを経験された方は理解できると思うが、予測した近辺にもベットしておくのは一つの作戦である。近辺の4番にも賭けておいたので、そこそこの配当が戻ってくる。

さて2投目、またも真剣な表情で球を投げると、なんとゼロにスポリと球は収まった。周囲からはどよめきが起こり、私の目の前には大きなチップの山がくる。ピットボスのSeanはウインクして笑っている。あまりにも驚いたので、ディーラーに質問。

-「いつも的中させることができるのか?」(私)

-「いや、いつもではない。」(ディーラー)

-「簡単そうに見えた。」(私)

-「簡単ではない。でも俺よりもっと上手な奴がいる。」(ディーラー)

この事実からわかることは、ギャンブルも、運のみで支配されているわけではないこと。プロのディーラーにかかれば、統計的な勝率はあてにならないということだ。完全にコンピューター制御されているスロットマシンならばいざ知らず、人的な要素が絡むゲームでさえも我々はコントロールされている。  人間的な要素が多いことがカジノ好きの理由でもあるが、やはりどの世界でもプロがいることを実感させられる。カジノには色々なプロがいるので、機会があれば他のトピックも紹介していきたい。

 

プロフェッショナルを感じさせる点は大きく2点ある。

まず、ディーラーの技量と冷静さ。日ごろから訓練していることを感じさせる振る舞いと実力。指示されたことに対して、難しいと思われることでも技術で結果を出していく姿勢。

2点目は、顧客を楽しませるという点である。特にラスベガスはエンターテイメントという観点では、やはり最高水準ではないだろうか。

韓国は金儲け色が強いし、マカオやアメリカ各地にあるインディアンカジノは騒々しく落ち着かない。アトランティックシティもラスベガスほどエンターテイメント性を感じさせないし、ヨーロッパはアムステルダムやロンドンに行ったが、気取りすぎ。オーストラリアも悪くないが、スタッフがプロっぽくない。テニアンは閉鎖的。

とにかく気持ちよく遊ばせようという姿勢が随所に感じられる。前述のピットボスもセンスのある奴だ。

カジノは、「勝者をより大事にする」と言われているが、これも事実である。

 

「人財マネジメントの原点」 – 神戸のタクシー運転手 –

「企業は人なり」、「人のパフォーマンスが企業パフォーマンスを向上させる」はよく耳にする言葉である。

私の人財マネジメントの原点は、神戸のタクシー運転手さんである。  当時私は、SAPという会社で人事モジュールの責任者という立場であった。大切なお客様の一つに川崎重工業があり、よく神戸に出張していた。神戸で乗ったタクシーの運転手がなにやら無線(携帯電話ではなく)で会話している。私に一言ことわったうえで、どうも仲間とやり取りしているようだ。

「今日は出とうか?ああ、ほんなら良かった。」

休んだ仲間を気遣っている模様。運転手仲間のグループがあり、どうもリーダー格のようだ。グループ内でルールをつくり、モチベーションマネジメントをしているとのこと。  仲間に声をかけあうだけでなく、情報交換をマメにするという。渋滞情報、客待ちタクシー行列の効率的スポット、人の流れなど、生きた情報とはまさにこのことである。最新テクノロジーのカーナビでも人の流れやタクシーの待ち効率は出てこない。ビッグデータが効率よく集まり、解析の精度が上がれば、人の流れやタクシーの必要スポット情報は提供されてくるであろう。またUberのような配車サービスも出てきた。テクノロジーを使ったパフォーマンス向上の良い事例であるが、現時点では人々のコミュニケーションと知恵に敵わない。

だんだん運転手のおじさんは自慢モードになってきたが、今度は千円札の束を見せられた。皆さんはタクシーに乗って、一万円札を出して嫌がられた経験はないだろうか。酷い運転手だと、客に両替させようとする。その運転手と仲間は、毎日十万円分を千円札に両替しておくという。特に朝一番はお釣りがないことが多いので、スムースに釣り銭を渡し、客を不愉快にしないように心がけていると言う。  さらに驚いたのは、降車するときに渡されたお釣り袋である。乗った距離はワンメーターであったのだが、ワンメーター分の千円からのお釣りが小さな透明のビニール袋に入っていた。これも数十個用意しておくらしい。間違わないし、車を止めてからの無駄が少なくスマートである。小銭を探している運転手にイライラさせられることも無く、僅かであろうが事故に会うリスクも少ないに違いない。

ちなみに、この運転手の売上げは平均社員の2倍、仲間グループの売上げも通常の1.4倍あるという。個人タクシーではなく、法人タクシー会社に勤める運転手さんであったが、人によって企業業績が異なってくることを実感させられた。  皆さんも経験がおありだと思うが、下手な運転手や新人ほど時間はかかるしメーターは上がる。おまけに危険である。いつもなぜ運転技能や経験に区分された料金体系にならないのかと思う。ハイヤーにベテラン運転手が割り当てられるのは一理ある。

ビジネスモデルや製品競争力、景気など、企業業績を左右するものは数多くあると思うが、最後は人。当時、人事モジュールの責任者といっても、なかなか人財育成の効果や、社員のパフォーマンスがどのように企業業績に影響するかを証明することは難しかったので、肌で感じた神戸のタクシー運転手によるパフォーマンス事例は、私の人財マネジメントの原点となった。