「日本人が持つ優位性」 – サービスとホスピタリティ –

 やはり日本のサービスとホスピタリティは凄いと思う。

 昔、チップ制度の国はサービスの国だから、サービスが素晴らしいと教えられた。とんでもない。いかにマニュアル的な対応が多いことか。食事の途中で、
– everything OK?
聞いてくれるのはいいが、あまりにもパターン化すると感動は薄れるし、チップ目当てのメッセージも多い。おまけに日本人が多い海外レストラン等は、チップが既に含まれていたりする。要注意です!

 この前、飛行機から降りたら、私の名前と座席番号を指定したプラカードを持った女性が立っている。プライベートでもよく利用する航空会社グランド・アテンダントのYさんだった。最初は「忘れ物でもしたかな?」と心配したが、
– 「よくご利用いただいているので、本日は特別なサービスを提供させていただきます。」(グランド・アテンダント)
– 「....?」(私)
– 「入国審査場まで、ご一緒させていただきご案内させていただきます。」(グランド・アテンダント)

 秘密のエレベーター?(普段使わないだけ)を通り、入国審査場で丁寧にお辞儀をして見送ってくれた。

 特別サービスの割には、私にとって大きな恩恵のないサービスなのだが、わざわざ人をアサインして待ち構えるという気遣いに感動した。以前別の航空会社で、エコノミーからビジネスクラスにアップグレードしてくれ、おまけにシャンパンをお土産に持たせてくれたことがあったが、何故かその時より好印象を受けた。

 極端な表現をすれば無駄なサービスだが、米国でみる航空会社従業員には上記のグランド・アテンダントの態度や言葉はない。これは米国航空会社の労働組合の強さから由来するのか?

 有名商社のIさんに紹介されたレストラン。なかなか予約が取れない場所だ。食事は美味しく、サービスも悪くない。感動したのは、食事場所に対するホスピタリティ。

 予約時Iさんは、いくつかの項目について質問されたそうであるが、特筆するは、「食事相手の業界」。個室でない場合、近くに同じ業界の人が座っていると、落ち着いて食事できないというのがその理由だそうである。したがって、同じ業界の人は近くに座らせないようにアレンジするのである。海外で、同じようなホスピタリティを提供しているレストランがあれば、ぜひ紹介していただきたい。

 日本の場合、ファミリーレストランでも感動する対応があった。電話がかかってきたのでホットコーヒーを注文して席を外した。席に戻ろうとした時、リーダー挌のウェイトレスが別のウェイトレスに目配せしている。合図されたウェイトレスは、暖かいコーヒーを運んできてくれた。一流のレストランは「目配り」が凄いというが、日本のファミリーレストランのレベルは恐ろしい。もっともこれはこの店と人だけかもしれないが。
 

 日本の旅館でのもてなし、タクシー運転手の親切さ、他の国ではなかなか味わえないと思いませんか?コミュニケーションが下手な日本人であるが、ホスピタリティと肌理細やかなサービスは日本人の優位性の1つだ。日本に来た外国人のほとんどは、閉鎖的な印象を受ける反面、ホスピタリティには感動する。サービス業の方は誇りをもっていいと思うし、グローバルにその感動を広げていくことができると思う。

 でも、「気が利かない人」っていますよね。お客様のコップが空になっても気づかない若者、相手の言いたいことを読み取れないコンサルタント、相手を不機嫌にしてしまう営業。個人の問題と片付けてしまうのは簡単だが、流行言葉になっている「美しい国」、そして「大人の国」になるためには、ホスピタリティを失ってはいけない。

「先送りの弊害」 – 問題先送りのリスク –

 社会保険庁問題、大騒ぎしています。この問題の根っこは、「責任感の欠如」と「問題先送り精神」。

 ビジネスにおいても時々「問題の先送り」をしたがる人がいます。後で結論を出した方が効率の良い意思決定項目は稀で、ほとんどの問題は先送りによって時間を浪費します。

 それどころか、記憶は曖昧になり、余計な仕事が増えていきます。しかも本人は、とりあえずその場は仕事をした気分になっているのでたちが悪いです。

管理者は「あれやってくれた?」と何度も確認しなければなりません。お客様からは、「この問題どうなっている?」と問い合わせが入り、問い合わせを受けた人の仕事を増やし、問題の張本人もリアクティブ(後手)なので、処理解決まで「先送りしなければ済んだ」以上の手間がかかります。

 意思決定とはリスクを伴うもの。リスクがあるので、情報収集や分析、状況の流れを読む力が必要になってきます。最後はカオス状況の予測し難い環境で判断することも多いはずですが、私は、この分析と流れを読む力こそが経験と考えています。脳ミソも、記憶の定着性は若年層の方が良いようですが、30歳を過ぎると、物事のつながりを判断して考えていくことに優位性がでてくるようになります。ITでいえば、システムやデータベースを繋げるネットワークの力が強力になってくる、つまりあちこちに分散した記憶データを寄せ集めて、物事を判断していく能力が飛躍的に高まるそうです。

 ちなみに「歳を取ると記憶力が衰える」というのも、必ずしもそうではなく、関心事の範囲が広くなる分、記憶の定着性が悪くなると言われています。自分が関心のないものに対して脳は「忘却する」というメカニズムを持っていますから、関心の薄いものは記憶に残りません。(脳に伝わった情報を全て精密に記憶してしまうと、さすがの脳も数分でパンクします)人生を左右するテストの合否結果や大切な商談、あるいは大切な人のメッセージ等は忘れないはずです。歳を取ると活動範囲が広くなる分、一つ一つの関心レベルは低くならざるを得ません。これが記憶力が衰える根拠ではないかと考えています。幼少の時期や若い時期は、見ること、聞くこと全てが新鮮で、視野が狭い分、余計なことを考えずどんどん吸収していきます。

 話を戻します。要は、得た情報を元にして判断する力は経験のなせる業ですから、問題が発生したら、それに対する解決努力を先送りせず、できるだけ早く意思決定していくことが「仕事のできる人」なのです。

 組織の中に問題先送り人間がいると、まわりの人の生産性をも低下させます。皆さん十分に注意しましょう。

 P.S. 恐慌のおそれがあると言われているサブプライムローンの問題。これも一種の問題先送りです。低所得者層をターゲットにしていたローンなので、そのリスクは昔からわかっていたはず。しかし最近そのリスクに火がついたのは、金利上昇の先送り問題がいよいよやって来たことが原因です。
 そういえば、日本にも「ゆとりローン」という金利上昇を先送りにしたローンがありました。これは低所得者層ターゲットではなかったと思いますので大丈夫かと?!。生活面でも「先送りのリスク」を認識しなければなりませんね。

「皿回し仕事人」 – マルチタスク人財2 –

 より難しいマルチタスクが皿回しだ。

 なぜならば、全体のバランスを見ながら個々の皿の回転時間を予測し、落下という最悪の事態になる前に回転を復活させ、全体を安定稼動させなければならない。

 落ちそうな皿があってもぎりぎりまで手をいれない方が、他のタスクを処理できるので、効率が良い。リスクを取りすぎて、小刻みに回し続けると、同時に回せる枚数が少なくなってしまう。

 仕事と同じで、今後の流れを読み予測を立て、優先順位を決めて処理していく必要がある。優先順位が加味される場合、それぞれの皿の価値が考慮されると考えてよい。

 経験が深くなればなるほど皿の回転時間に対する予測が正確になり、どの皿を大切にしなければならないかを考えながら、できるだけ多くの皿を回していくことが「仕事のできる人」である。ビジネスパーソンと皿回し芸人の異なる点は、優先度の低い皿は割っても良いところかもしれない。皿回し芸人の場合、1枚でも割ると一気にそのパフォーマンスの価値が下がるが、仕事の場合、上手に無視してしまう、またはリターンが少ない仕事は捨ててしまうということも必要である。「知恵を絞って捨てること」は戦略であるので、これも「仕事のできる人」にとっては重要なスキルである。目先のことに追われて、大切な仕事をやり残しては、ローパフォーマーになりかねない。

 ときどき、いくつもの仕事が立て込んで、余裕なくぎりぎりの状態にあるとき「皿回し状態」と表現するが、なんとか回せているのであれば「仕事ができる」ことの置き換えでもある。

 マルチタスクと優先順位、ビジネスパーソンにとって重要ですね。

 P.S. 「脳のトレーニング」で聖徳太子というゲームがあり、同時に複数の会話が流れて、それを聞き取るゲームですが、意味があるのかなあといつも思っています。効果はあるのでしょうか?

「ジャグリング仕事人」 – マルチタスク人財 –

 経験の差、また個人の資質として差がでてくる領域がある。マルチタスクだ。

– 「私は今この仕事をやっているからできません。」
– 「1つの仕事に集中したいんです。」

 もっともだが、現実には1つの仕事だけやっていればいい人は少数派だろう。非常にシンプルな作業で、他の人とのコミュニケーションがあまり必要のない仕事はシングルタスクの方が効率がよいかもしれない。

 実際、複数の仕事を並行してこなしていくよりも、並行させない方が効率的であると主張する人もいるが、結論としてはマルチタスクの方が仕事量(スループット)は多くなる。その理由は、仕事には必ず無駄があるからだ。

 コンピューターのマルチタスク処理のベースとしてパイプライン処理がある。処理プロセスを分割して、処理の流れを複数化し、CPUが空いた隙間にどんどん処理を詰め込んでいくやり方だ。この場合の仕事の無駄は、データをハードディスクからメモリに読み込んだり、メモリのあるアドレスから別のアドレスにデータを移したりという作業で、シングルタスクの場合、CPUは「待ち」に入ってしまう。

 人間の仕事も同じで、複数の人と仕事を進める場合、ある人の返事がもらえないと判断ができないとか、電話がかかってきたり、想定していない事故がおこったり、前提となるタスクが遅れたり、必ず仕事の隙間ができてしまう。このとき1つの仕事しか処理していない、つまりシングルタスクだと「待ち」や「無駄」が生じてしまう。経験が深い人は、この無駄をよくわかっている。

 ジャグラーは、2本の腕しかないのに3本以上の棒や3個以上のボールをコントロールしてしまう。棒やボールが空中に存在する「隙間」を利用してマルチタスクを可能にしている。この「隙間」を読みながら数多くの仕事をさばいていくプロフェッショナルがジャグリング仕事人だ。

実は単発の仕事で、能力の差は大きくでない。(ドライバーなのに運転免許を持っていないとか、英語が必要なのに英語が話せないなど、土俵にのっていない場合は話にならないが)「仕事のできる、できない」は、マルチタスクがこなせるかどうかで、全体的な仕事量、つまりスループットと質に大きな差がでてくる。

 企業が求めている人財は、やはりマルチタスクをこなすプロフェッショナル。

ジャグリング仕事人になろう。

「人財マネジメントの原点」 – 神戸のタクシー運転手 –

「企業は人なり」、「人のパフォーマンスが企業パフォーマンスを向上させる」はよく耳にする言葉である。

私の人財マネジメントの原点は、神戸のタクシー運転手さんである。  当時私は、SAPという会社で人事モジュールの責任者という立場であった。大切なお客様の一つに川崎重工業があり、よく神戸に出張していた。神戸で乗ったタクシーの運転手がなにやら無線(携帯電話ではなく)で会話している。私に一言ことわったうえで、どうも仲間とやり取りしているようだ。

「今日は出とうか?ああ、ほんなら良かった。」

休んだ仲間を気遣っている模様。運転手仲間のグループがあり、どうもリーダー格のようだ。グループ内でルールをつくり、モチベーションマネジメントをしているとのこと。  仲間に声をかけあうだけでなく、情報交換をマメにするという。渋滞情報、客待ちタクシー行列の効率的スポット、人の流れなど、生きた情報とはまさにこのことである。最新テクノロジーのカーナビでも人の流れやタクシーの待ち効率は出てこない。ビッグデータが効率よく集まり、解析の精度が上がれば、人の流れやタクシーの必要スポット情報は提供されてくるであろう。またUberのような配車サービスも出てきた。テクノロジーを使ったパフォーマンス向上の良い事例であるが、現時点では人々のコミュニケーションと知恵に敵わない。

だんだん運転手のおじさんは自慢モードになってきたが、今度は千円札の束を見せられた。皆さんはタクシーに乗って、一万円札を出して嫌がられた経験はないだろうか。酷い運転手だと、客に両替させようとする。その運転手と仲間は、毎日十万円分を千円札に両替しておくという。特に朝一番はお釣りがないことが多いので、スムースに釣り銭を渡し、客を不愉快にしないように心がけていると言う。  さらに驚いたのは、降車するときに渡されたお釣り袋である。乗った距離はワンメーターであったのだが、ワンメーター分の千円からのお釣りが小さな透明のビニール袋に入っていた。これも数十個用意しておくらしい。間違わないし、車を止めてからの無駄が少なくスマートである。小銭を探している運転手にイライラさせられることも無く、僅かであろうが事故に会うリスクも少ないに違いない。

ちなみに、この運転手の売上げは平均社員の2倍、仲間グループの売上げも通常の1.4倍あるという。個人タクシーではなく、法人タクシー会社に勤める運転手さんであったが、人によって企業業績が異なってくることを実感させられた。  皆さんも経験がおありだと思うが、下手な運転手や新人ほど時間はかかるしメーターは上がる。おまけに危険である。いつもなぜ運転技能や経験に区分された料金体系にならないのかと思う。ハイヤーにベテラン運転手が割り当てられるのは一理ある。

ビジネスモデルや製品競争力、景気など、企業業績を左右するものは数多くあると思うが、最後は人。当時、人事モジュールの責任者といっても、なかなか人財育成の効果や、社員のパフォーマンスがどのように企業業績に影響するかを証明することは難しかったので、肌で感じた神戸のタクシー運転手によるパフォーマンス事例は、私の人財マネジメントの原点となった。