「興味と成長」 – カルバドス –

 りんごがビンの中に入ったお酒、何かわかりますか?

 りんごのブランデー、「カルバドス」です。似たようなお酒に、ぶどうのかす取りから作られた「マール」(樽漬け、フランス)、「グラッパ」(樽熟成なし、イタリア)があります。60度ぐらいの、ひっくり返るような強いものもあり、食後のデザート代わりに飲まれたりします。

 「カルバドス」はりんごの発泡酒シードルを蒸留させたもので、フランスらしく、シャンパンと同じように、ノルマンディ地方でつくられたものしか「カルバドス」と呼ばせません。

 あるレストランで食後に勧められたものが、写真の「カルバドス」です。なかなか美味しそうです。写真だとすぐに気づくと思いますが、大きなりんごが壜の中に入っています。ここで面白いのは、お酒そのものに興味が集中する人と、このりんごに目線が行く人が分かれるところです。ある人は、「これはお酒なのか?いったい何のお酒?」、別の人は、「どうやってこの細い壜の口から、大きなりんごを入れたんだろう?」という感じです。

 この興味の対象が人によって異なるのは当然です。ちょっと怖いのは、「なぜ?」という知的好奇心が薄らいだことによって、壜の口に対するりんごの大きさに興味を持たなくなることです。既に知っている人も、アルコールで酔っ払ってしまった人も問題ありません。ただし、そうではないのに気づかなかった人は要注意ですね。

 「歳をとると物忘れが多くなる」と嘆く人がいますが、それは経験が積まれるにあたって興味を失い、記憶の中の優先順位が下がってしまっただけです。脳みそは年齢で退化はしないと脳科学者は言っています。街角で気になる異性や芸能人、印象に残りますね。しかし普通の通行人の表情を覚えている人はほとんどいないはずです。

 「好きこそ物の上手なれ」とはよく言ったものです。好きだからこそ一生懸命やれて上達も早い。知的好奇心は「学びのきっかけ」。子供は何にでも興味を持ち、どんどん経験したことを吸収していきます。「なぜ?なぜ?なぜ?」を失いたくないです。

 P.S. 
もうお分かりかと思いますが、一応りんごの入れ方を解説しておきます。偽ボトルシップは壜をカットして、船を入れた後に元に戻すそうですが、このりんごも壜をカットしたりはしません。春先の実に壜を被せ、大きくなるまで育てていくようです。最初に考えた人は、きっと誰かをびっくりさせるために長い時間ニヤニヤしながら成長を眺めていたんでしょう。スローライフとはまさにこのことだと思います。

「企業文化と地域」

 米国の牡蛎(かき)に「ウェストコース・オイスター」と「イーストコースト・オイスター」があるのをご存知ですか?

 私は、甘さを感じるウェストコーストの牡蠣の方が好みです。大粒の牡蠣が好きな人は、イーストコーストのものがお勧めです。

 米国西海岸の陽気と、東海岸の生真面目さ。まったく違いますね。日本でいえば、大阪と東京、中国だと北京と上海、ヨーロッパだとイギリスとフランス、さらにはイングランドとアイルランドといった感じです。これは地理的な違いによる文化・風習の違いの一例ですが、私が経験した米国企業はやはり西海岸と東海岸では、企業文化に差があると思われます。

 スタートアップ企業をみても、西海岸では、学生時代からのアイデアが元になったアントレプレナー型の起業が多いのに対して、東海岸では、企業のドロップアウト型による起業が多いという印象を受けます。例外はもちろん存在するので、断定はしませんが、西海岸のずば抜けた陽気さが育む自由さと、人々をエンパワーし、とにかくチャレンジしてみようという気運は東海岸より勝っている気がします。一方、東海岸の企業は、統制がきっちり成されていて、統制型の企業文化が根付いています。

 さて、企業文化とは何か?

– 既存の価値観や伝統に基づく企業独自の性質や精神
– 社員の考え方や行動習慣の根本となるもの
– 企業文化とは、企業内の人間が共有する価値観、信条

など、色々な定義がありますが、私の定義は、「戦略を長期的に補完する社員の行動規範と価値観、職場の雰囲気」としたいと思います。

 以前、「楽しくやろう!」と声高に叫ぶ管理職がいました。飲み会もあれば、イベントもあるのですが、職場はまったく楽しくありません。この原因はよくわかりませんが、多くの人が「楽しくない」と言っていました。この管理職の行動を分析すると、とても官僚的、人の言うことを聞かず押し付けの価値観と命令が多かったと思います。多くのアイデアがある人々、積極的に提案をしていく人達を無言のうちに減らしていったのです。職場の雰囲気は、とりあえず言われたことをやるモードで、アイデアよりルールが最優先の職場は、アイデアパーソンを腐らせていきます。社員の行動を全てマニュアルに記載して、管理していくことは不可能です。接客技術の高いノードストロームやリッツカールトンの従業員がとった有名な行動は、マニュアルに記載されていたわけではありません。ルールになくても、基本となる信条に基づく行動が許される雰囲気が普段からないと、気持ちが萎縮してしまって行動に至りません。

 この企業文化、地域は関係あるのでしょうか?最近、自分のキャリア変更のタイミングで多くの企業幹部と会話しました。あくまでも私が接した印象ですが、やはり西海岸の企業の方が柔軟でした。いくつかの質問、提案、リクエストに対する反応があきらかに西海岸企業の方は融通が利きます。「Yes」ばかりではありませんが、一旦は検討してくれます。シリコンバレーのGoogle、Yahoo、Amazon新しいビジネスモデルは、やはり西海岸から生まれています。

 多くの異論があると思いますが、今日のところは西海岸に1票です!!