「学習意欲」 – 成長のエンジン –

 ビジネスの世界における成長とは、過去の経験を活かし、より良い判断、生産性の高い仕事をしていくことをいう。成長することに対する期待値がポテンシャル、成長することがビジネスパーソンとしての人財価値の向上である。

 具体的には、意思決定が必要な仕事であれば、リスクと結果を予測して最適値を導き出す能力が向上すること。例えば企業買収などの大きなリスクを伴う意思決定や、顧客からのクレームといったトラブル対応の適切な対応が挙げられる。

 技術であれば、経験や訓練を積むことによって素早く難易度の高いものを処理していくことができるようになることが「成長の証」である。ものづくりであれば、品質やスピードが違ってくるし、医師を例にとると、症状を診断し、正しい処方を施すことができる能力である。名医ともなれば、教科書的に処理するのでなく、患者の特性やその時の症状を考慮して薬の量を調整したり、投薬のタイミングを変える。外科であれば、手術そのものに巧みの技が表れる。「名医になるためには何人かを犠牲にしなければならない」なんて友人の医者は言っている。物騒な話であるが、事実である。医師の仕事において、99%ともいえる一般的な処方や処置は、医学知識があれば誰でもできるが、残りの1%の難しい処方や手術は、名医と普通の医者では雲泥の差がでるという。

 皆さん、「ここぞ!」というときは名医を探しましょう。

 成長を助長するものとして、私は下記の3つを重視している。つまり成長のためのエンジンである。

– 素直な心
– 学習のインセンティブ
– 変化性向

 「素直な心」、これは子供達が証明している。透き通った目で物事を吸収していくのでどんどん成長する。後輩を指導しても、素直でない社員は育たない。疑問を持つことは大いに結構、ただし検証の努力やそれ以上の勉強なくして、あまのじゃくになっていても絶対に成長曲線はジャンプしない。

 「学習のインセンティブ」、これは、モチベーションに近いものがある。学習する目的がないと、そもそも人は学習しない。目的を持った学習こそが最も効果的な学習である。自分の役割、使命を遂げるために能力を磨くこと、そしてその磨かれた能力によって成果をあげた結果、報酬に繋がれば、学習のインセンティブは大きい。人の命を救うことや人類の進化に貢献することも社会的に意義のあることで、これも大きな学習のインセンティブである。立派な大人になりたい、憧れのスターになりたいというのも子供にとって、大きなインセンティブである。学習のインセンティブは大きな成長のエンジンである。

 「変化性向」、現状に流されること無く、常に変化を追い続けること。これが最も難しい。知的好奇心が強い人は、変化性向の強い行動をとることは比較的容易かもしれないが、変化をリスクと感じる人には恐怖感が伴う。この恐怖感を克服した人は、明らかに成長する。健康な脳は絶えず刺激を求めているので、何も刺激のない状態、例えば真っ暗な音も遮断された部屋に閉じ込められると幻覚を覚える。成長するためには変化を求めていかなければならない。

 よく「失敗を恐れず」と言うが、サルでも失敗した経験のあるサルの方が発達している、つまり成長しているという。

 さて、あなたの成長のエンジンは何でしょうか?

「興味と成長」 – カルバドス –

 りんごがビンの中に入ったお酒、何かわかりますか?

 りんごのブランデー、「カルバドス」です。似たようなお酒に、ぶどうのかす取りから作られた「マール」(樽漬け、フランス)、「グラッパ」(樽熟成なし、イタリア)があります。60度ぐらいの、ひっくり返るような強いものもあり、食後のデザート代わりに飲まれたりします。

 「カルバドス」はりんごの発泡酒シードルを蒸留させたもので、フランスらしく、シャンパンと同じように、ノルマンディ地方でつくられたものしか「カルバドス」と呼ばせません。

 あるレストランで食後に勧められたものが、写真の「カルバドス」です。なかなか美味しそうです。写真だとすぐに気づくと思いますが、大きなりんごが壜の中に入っています。ここで面白いのは、お酒そのものに興味が集中する人と、このりんごに目線が行く人が分かれるところです。ある人は、「これはお酒なのか?いったい何のお酒?」、別の人は、「どうやってこの細い壜の口から、大きなりんごを入れたんだろう?」という感じです。

 この興味の対象が人によって異なるのは当然です。ちょっと怖いのは、「なぜ?」という知的好奇心が薄らいだことによって、壜の口に対するりんごの大きさに興味を持たなくなることです。既に知っている人も、アルコールで酔っ払ってしまった人も問題ありません。ただし、そうではないのに気づかなかった人は要注意ですね。

 「歳をとると物忘れが多くなる」と嘆く人がいますが、それは経験が積まれるにあたって興味を失い、記憶の中の優先順位が下がってしまっただけです。脳みそは年齢で退化はしないと脳科学者は言っています。街角で気になる異性や芸能人、印象に残りますね。しかし普通の通行人の表情を覚えている人はほとんどいないはずです。

 「好きこそ物の上手なれ」とはよく言ったものです。好きだからこそ一生懸命やれて上達も早い。知的好奇心は「学びのきっかけ」。子供は何にでも興味を持ち、どんどん経験したことを吸収していきます。「なぜ?なぜ?なぜ?」を失いたくないです。

 P.S. 
もうお分かりかと思いますが、一応りんごの入れ方を解説しておきます。偽ボトルシップは壜をカットして、船を入れた後に元に戻すそうですが、このりんごも壜をカットしたりはしません。春先の実に壜を被せ、大きくなるまで育てていくようです。最初に考えた人は、きっと誰かをびっくりさせるために長い時間ニヤニヤしながら成長を眺めていたんでしょう。スローライフとはまさにこのことだと思います。