「データの罠」 – 口コミ・マーケティング時代 –

「データでもって証明してください。」と誰しも言われたことがあると思う。

稟議資料やプレゼンテーション資料、客観データが入っていると、説得力が増す。これは事実だ。徹底的にデータ検証、データ分析することによって、新たな事実やこれまで見えていなかった事象が見えるようになることもある。

いずれにしてもビジネスにおいて、事実を認識・理解していく過程、意思決定していく場合のデータには大きな価値がある。

一方人財マネジメントの領域においては、圧倒的に客観データが少ない。「情実人事」などと言われるように、顔が見えている人事が多く、上司が部下を知っていることによる適切な判断がなされる。ところが上司が異動してしまったり、付き合いが短い上司と部下だと、双方に大きなリスクが発生するというのがその実態だ。したがって、この客観データを提供していくことこそが我々の仕事であると考えている。

客観データをできる限り与え、最後は「人肌の人事」でマネジメントしていくことを私は常に主張している。私の勤めていた昔の会社では、夫婦で勤めていた社員が少なくなかった。どちらかが地方へ転勤になると、旦那もしくは奥さんの方の希望を聞いて、できる限り一緒に転勤させることを試みる上司が複数いた。ITで人財マネジメントを支援していながら、こんなことを言うのも変かもしれないが、「人肌の人事」があるからこそ人財マネジメントは人間の仕事なのだ。

久しぶりに那須のA温泉に行った。いつもながら良いお湯である。

知人のために宿泊予約を調べようと、ウェブサイトを見ると、ネット掲示板での書き込みがある。この利用者参加型の評価システムは、存在感が日増しに大きくなって、ブログや書き込みコメントを商売にするプロ達もでてきた。Web2.0時代の新しいマーケティングである。

概ね実態どおりの評価が並んでいるが、ある人が酷評している。好き嫌いは当然あるので、それはそれで正しい意見かもしれないが、明らかにこの人温泉わかっていないのではと思われるレビュー内容だった。よく読んでみると、文章もおかしい。

ところがこのメッセージには罠があった。データがきっちり提示されているのである。

温泉の成分分析がグラフで提示されていて、「A温泉はB温泉とまったく同じである。それなのにxxx円は高い。」というのがこの人のメッセージである。

私は栃木県人で、A温泉もB温泉もよく知っている。色々なところを巡るものの、大体毎週出かけるので、行った回数も半端ではない。明らかにA温泉とB温泉の泉質は異なる。肌がツルツルになり、美人の湯とも言われている。お酒のブラインドテストではないが、目隠しして入っても、その違いを当てる自信がある。それぐらい入浴時の感覚は違うのに、データを信じきった人が断言している。またそのメッセージはネットを通じて瞬く間に伝搬していく。

口コミ・マーケティングが「悪い方に作用」すると、また、「データを情報に変化させないまま活用」すると大変なことになる。

「口コミの威力」 – ソーシャルネットワークのパワー –

 3月11日の大地震、被災された方々に心よりお見舞い申し上げます。

 強烈な地震でした。私自身は、会社のオフィスでミーティング中でした。揺れでホワイトボードに文字を書くことができず、「これはダメだ」とミーティングを諦めて、同僚と揺れが収まるのを待ちました。ほとんどの人が同じような経験をされたと思いますが、携帯電話の通話は直ぐに通じなくなり、携帯メールも不安定で、届くまで2-3時間の時差がありました。

 一方、インターネットは問題なく稼動しており、非常に安定していました。Webと言われるように、くもの巣状に張り巡らされたインターネットは、一部の回線が不通でも影響を受けません。ニュースも素早く配信されるので、刻一刻変わる状況がわかります。

 電子メールは、コミュニケーション手段として、欠かせない生活の一部となりましたが、今回さらにそのパワーを感じさせたのがソーシャルネットワークです。メールはある意味、クローズな世界ですが、ソーシャルネットワークはコミュニティにおける情報共有。状況がどんどん変わる中、パブリックではないが、コミュニティという限定された社会の中でコミュニケーションが成立し、情報が波及していくスピードに驚かされました。

 こちら側が積極的に進めているわけではないにもかかわらず、週に何通かは届くFacebook等の「お友達リクエスト」、コミュニティ自身もどんどん増殖していきます。

 ウィキリークスは内部情報を暴露し、政府を震撼させました。それがソーシャルネットワークでさらに広がって、チュニジアを始めとする革命活動に繋がっていきました。

 最近の飲食店、口コミの評判を見る人が増えています。私も内視鏡検査を受けようと、病院の予約を昨日行いましたが、名医口コミ、参考になりました。六本木の有名な牛たんのレストラン、口コミを見て、直ぐに別の店を探すことにしました。このように情報は、人々の行動に影響を与えていきます。もうこのパワーは無視できない流れです。

 今後は、この情報の精度、信憑性をどのように担保していくかが重要なテーマになってくると思います。デマもあれば、自分で風評を流す人も出てきます。インターネット出現前から問われてきた「メディア」の存在意義と、公共性、社会性、報道の自由、プライバシー問題、画一の答えがないところをみると、今後も課題は残るでしょう。

 P.S. 大流行のFacebook、振り返れば2007年にカリフォルニアでは、話題を呼んでいました。あるカンファレンス会場で、テーマは「コラボレーション」で、「Facebookをやっている人?」という質問に対して、会場で手をあげた人は2割ぐらいだったでしょうか。やはりシリコンバレーは3年進んでいます。
カスタマイズしたクーポン券の配布サービス、「このビジネスを日本でやって欲しい」と言われたのも3年前でした。