「自分ブランド」 – 余人をもって代えがたし –

 資生堂、アップル、メルセデスベンツ、三菱東京UFJ銀行、スターバックスコーヒー等など、ブランドの力って凄いですね。この前欧州の大手製薬メーカーの方と今流行のジェネリック薬品の話になりました。結論として、やはり「ビタミン剤レベルであればともかく、生命に関わるような薬品で、ブランドのないものは皆さん利用しないでしょう。」というコメントでした。

 ブランド価値は、付加価値の評価結果ともいえる「価格」を維持し、顧客の囲い込みに繋がっていきます。

 さて、人財マネジメントの世界におけるブランドとは何でしょう?あるいは、あなたのブランドは何ですか?「自分ブランド」は何かを認識しておくことは重要です。

学歴や名門の出身という優位性もありますね。ただしこれらはあくまでも静的な過去の資産・ブランド。ビジネスの世界での「自分ブランド」は、その人でなければできない仕事がどれだけあるかということだと思います。「余人をもって代えがたし」という部分が、その人のブランドでしょう。

コミュニケーション能力や語学力、財務諸表の理解、人間的な暖かさや好感度、コミットメントの強さ、誠実性、発想の豊かさ、業務に対する理解・経験、専門知識、それこそ評価項目は山ほどあるし、求められる部分も状況に応じて変わってきますが、「あの人なら安心できる」、「あの人でなければこの仕事は無理」という部分がビジネスパーソンとしてのブランドとなります。

先ほどのジェネリック薬品の話のように、どうでもいい領域はともかく、トラブル時や重要なビジネス案件になるとエース登場というのが一般的です。逆に他の人でもこなせる仕事であれば、それは代替可能という観点ではブランドの不要な仕事になります。その人しかできない仕事であれば、当然、高額報酬額も気にならないはずですし、未経験者でもカバーできる仕事であれば人件費の低い人・地域・国へ流れていきます。

人財の世界においても、ブランド価値が差別化要素になることは変わりません。実力はないが、言うことだけは大きい「偽ブランド」にも注意しましょう。

P.S. 日立製作所さんの広告「この樹何の樹、気になる樹」という詩から、もはや樹までブランドを持つ時代です。一説によると、日立さんはハワイの樹と土地を買い取ったらしい?

「人財マネジメントの原点」 – 神戸のタクシー運転手 –

「企業は人なり」、「人のパフォーマンスが企業パフォーマンスを向上させる」はよく耳にする言葉である。

私の人財マネジメントの原点は、神戸のタクシー運転手さんである。  当時私は、SAPという会社で人事モジュールの責任者という立場であった。大切なお客様の一つに川崎重工業があり、よく神戸に出張していた。神戸で乗ったタクシーの運転手がなにやら無線(携帯電話ではなく)で会話している。私に一言ことわったうえで、どうも仲間とやり取りしているようだ。

「今日は出とうか?ああ、ほんなら良かった。」

休んだ仲間を気遣っている模様。運転手仲間のグループがあり、どうもリーダー格のようだ。グループ内でルールをつくり、モチベーションマネジメントをしているとのこと。  仲間に声をかけあうだけでなく、情報交換をマメにするという。渋滞情報、客待ちタクシー行列の効率的スポット、人の流れなど、生きた情報とはまさにこのことである。最新テクノロジーのカーナビでも人の流れやタクシーの待ち効率は出てこない。ビッグデータが効率よく集まり、解析の精度が上がれば、人の流れやタクシーの必要スポット情報は提供されてくるであろう。またUberのような配車サービスも出てきた。テクノロジーを使ったパフォーマンス向上の良い事例であるが、現時点では人々のコミュニケーションと知恵に敵わない。

だんだん運転手のおじさんは自慢モードになってきたが、今度は千円札の束を見せられた。皆さんはタクシーに乗って、一万円札を出して嫌がられた経験はないだろうか。酷い運転手だと、客に両替させようとする。その運転手と仲間は、毎日十万円分を千円札に両替しておくという。特に朝一番はお釣りがないことが多いので、スムースに釣り銭を渡し、客を不愉快にしないように心がけていると言う。  さらに驚いたのは、降車するときに渡されたお釣り袋である。乗った距離はワンメーターであったのだが、ワンメーター分の千円からのお釣りが小さな透明のビニール袋に入っていた。これも数十個用意しておくらしい。間違わないし、車を止めてからの無駄が少なくスマートである。小銭を探している運転手にイライラさせられることも無く、僅かであろうが事故に会うリスクも少ないに違いない。

ちなみに、この運転手の売上げは平均社員の2倍、仲間グループの売上げも通常の1.4倍あるという。個人タクシーではなく、法人タクシー会社に勤める運転手さんであったが、人によって企業業績が異なってくることを実感させられた。  皆さんも経験がおありだと思うが、下手な運転手や新人ほど時間はかかるしメーターは上がる。おまけに危険である。いつもなぜ運転技能や経験に区分された料金体系にならないのかと思う。ハイヤーにベテラン運転手が割り当てられるのは一理ある。

ビジネスモデルや製品競争力、景気など、企業業績を左右するものは数多くあると思うが、最後は人。当時、人事モジュールの責任者といっても、なかなか人財育成の効果や、社員のパフォーマンスがどのように企業業績に影響するかを証明することは難しかったので、肌で感じた神戸のタクシー運転手によるパフォーマンス事例は、私の人財マネジメントの原点となった。

「新興国パワー2」 – ワインとカジノ(2) –

 G8入りを断った中国。新興国側に留まり、自国の成長を優先させるという戦略です。

 これは立派な戦略ですね。コントロールという表現が適切かどうかわかりませんが、成熟側について、自主規制や全体最適を目指す中にいるより、独自路線で個別最適を目指すほうが自国には有利です。弱っている日本、もっと学ばなければなりません。

 今回、ラスベガスの小型版と言われるリノ(Reno)を訪れる機会を得ましたので、レポートしたいと思います。

 リノは、米国ネバダ州北西部の商業・観光都市で、昔は金鉱・銀鉱で繁栄したようです。自称、“The Biggest Little City In The World”(世界で一番大きい小都市)と表現しており、何人かの方が、このメッセージを使いながら少し自慢げにRenoを説明してくれました。カジノが多く存在するメインストリートにも、可愛らしい看板にこのメッセージが書かれていました。

 以前から一度訪問したい街であり、カジノファンとしては、外せない場所だったのですが、ワンストップでたどり着ける場所ではないので、なかなか機会に恵まれませんでした。足としては、サンフランシスコ空港からレンタカーで向かったのですが、遠いこと遠いこと。米国のドライバーにとっては、普通なのかもしれませんが、日本からのフライトの後行程としては山道を含めタフな4時間ドライブでした。
カジノのマネージャが、「次回は、空港までの送り迎えと1日観光をアレンジするので、飛行機で来い。」と言うのがよくわかります。今回のように一人で来るのであれば、タホ国際空港を利用するのがお勧めです。

 新興国という観点でコメントすると、まずサンフランシスコ空港で見かける日本のパスポートが目立たなくなりました。以前は入国審査の列は、日本のパスポートを持った人々で一杯でした。実数では減っていないのかもしれませんが、とにかく中国・ベトナムを始めとするアジア諸国の人々が圧倒的に増えました。ビジネスで米国に来る中国人は以前から多かったと思われますので、観光目的の人が増えたと思われます。
一方、リノはどうだったかというと、ここは米国人の旅行者中心でした。リノで会った日本人はゼロ、日本以外のアジア人もそんなに多くなく、サンフランシスコとは大違いです。

 リノのカジノ、錆びれているという人もいましたが、なんのなんの、それなりに賑やかでした。もちろん少し古臭いカジノや人の少ないカジノもありますが、それはラスベガスもマカオも同じです。

 細かいトピックは色々ありましたが、全体的な印象を言うと、とにかく「フレンドリー」。これはディーラーだけでなく、カジノのマネージャやホテルの人々も徹底しています。街全体で意識していると思われます。私の宿泊していたカジノホテル、テーブルゲームのディーラーは、できるだけプレイヤーをファーストネームで呼びます。ディーラーが交代するときも、次のディーラーに名前を引き継ぎます。覚えるのは大変そうですが、後ろにいるカジノのマネージャもヘルプしながらこのオペレーションを続けていました。

 私が街全体と言っている理由は、他のカジノでも同じような努力が見られたからです。名前を覚える努力は、どこでもというわけではありませんでしたが、テーブルの電光表示板に、「Renoのフレンドリー・コンテストでno.1」という表示をしているカジノがあったり、プレイそっちのけで、世間話をするディーラーも少なくありません。

 また、Andyというディーラーは、とにかく色々な人から声をかけられ、挨拶されます。手捌きはプロフェッショナル、しかしコミュニケーションはゲストの雰囲気を見ながら適度な対応、親しみやすいディーラーです。外見はジャック・ニコルソンそっくりで、人気がある理由の一つかもしれません。かなりのプロフェッショナルと思ったので、経験を聞いてみると、25年間Peppermillというカジノのディーラーをやっていたそうで、8ヶ月前に私の宿泊しているカジノに移ってきたとのこと。人気ディーラーなので引抜かれたのかと思い尋ねると、なんとクビにされたらしい。悪いことでもしたのかと思いましたが、話を聞いてみると、どうやら周りの嫉妬や妬みのようです。誰かがマネージャに告げ口をし、マネージャも客と親しくし過ぎていることを快く思っていなかった模様です。しかし再雇用されていることや、新しい職場でも常連客から人気があることを考えると、悪事は働いておらず、事実のようです。

 解雇されても、直ぐに同じ街のカジノで職を見つけることができるのは、これもその人のエンプロイヤビリティ、つまり人財価値がある証拠ですね。

 P.S.
 前回コメントした遅延のプレムール・ワイン、無事届きました。新興国に優先されたものの、日本の業者さんは真面目。裏切ることなく契約金額で届けてくれました。届いたワインの価値は、契約価格の3倍以上です。