Googleが上場もしていない頃、Googleの創業者と渋谷で会った。まさかマイクロソフトを追い越す企業になるとは思わなかった。
さて、人財マネジメント分野におけるIT企業はあまり日本に進出していない。米国にはこの領域に、かなりの数のIT企業が存在する。はっきり言って、人事関連のアプリケーションにとって日本は難しい市場なのだ。
難しい理由を私なりに考えてみる。
まず、そもそもIT市場の伸びが少ない。アジア圏であれば、中国、インド、ベトナム、タイなどの伸び率には遠く及ばない。
「企業は人なり」という言葉とは裏腹に、人事システムの優先順位は高くない。やはり会計システム、生産管理システム、サプライチェーン・システムなどの後塵を拝することになる。
最も大きな理由としては、日本の人事部が偉すぎることだ。昔からエリートの集まりで、出世街道を歩くためには、どうしても人事部を経験しなければならない会社もあったくらいだ。なぜ人事部が偉いとダメなのか?ITを馬鹿にするからである。ITを崇拝するのは具の骨頂であるが、上手に利用した方が生産性は高い。ビジネス上の連絡に、現在でも郵便手紙を使っている人は何人残っているだろう?インターネットベースのメールシステムがないと仕事が立ち行かない。やはりITを上手く利用して、戦略思考に時間を使わないといけない。
以前、書籍を執筆したときに、「人事情報の非対称性」について述べた。これは情報の有無において不均衡が生じることで、人事情報はとても隔たりが出易い。機密性の高い情報でもあるから、注意が必要なことは確かだが、人事部だけが独占する必要もない。「見える化」すると、都合の悪い情報があるので隠していることも多いはずだ。悪いケースだと、この人事部だけが持つ情報を人事部の優位性にしてしまって、自分達の業務の特殊性を主張する人達もいる。ITは「見える化」を促進する。
面白い統計がでている。「人事制度設計に熱心な企業の業績は最近悪化している」という統計である。笑い話で(実例らしいが)、大病院における投薬の例がある。高血圧の患者が大量の薬を貰い、効きすぎて調子が悪くなった。別の医師に調子が悪いことを告げると、血圧が低すぎるので血圧を上げる薬を出され、2種類の薬を飲まされ続けたとのことである。人事制度もいじりすぎると、効果は相反する部分もでてくるし、複雑すぎてよくわからない評価制度などもある。人事制度設計を趣味のように考える人事の人がいたら要注意だ。
「所詮IT」、「たかがIT」であるが、日本の人事プロセスの生産性を高め、経営者、管理職と人事部が「戦略思考に費やす時間」と「人肌の人事に費やす時間」を増やし、少しでも日本企業の競争力強化に貢献していきたいと思う今日この頃である。