「成果主義運用の間違い」 – 明るい成果主義1 –

『職場砂漠』という本を読みました。「働きすぎ時代の悲劇」とあるが、確かに悲劇である。あってはなりません。

 これらの諸問題は現実に存在するし、事実であると思います。一言では解決できない難しい問題です。現にこの本でも解決策が示されているわけではありません。どちらかというと、ジャーナリストとして真実を伝えるというモードで書かれています。

 危険なのは、これらの諸問題が成果主義自体の問題と誤解されることです。成果主義を問題視する書籍が話題となり、また、それを受け入れたくない層というか、これまでの評価制度からの変化に戸惑いを覚える人達に、「やはり成果主義は日本に合わない。」と追い風を送っています。

いつも成果主義そのものが間違いかのごとく叫喚されますが、成果主義はフェアな考え方であり、批判の多くは、その運用の間違いに基づくものです。仕事もしないのに、長年、籍をその会社に置いていただけで高給を貰っていては、低い給与で大きな貢献をしている人に説明がつきません、とても不公平です。

 ここで運用の難しさを述べたいところですが、長くなりますので、次回に譲りたいと思います。

 残念だったことは、この書籍のマーケティングです。インパクトのあるキャッチコピーがないとなかなか読者の目にとまって、買ってもらえないことは理解できますが、「グローバル化とIT化がもたらしたサラリーマンの心の病」と書かれては、成果主義どころかグローバル化とIT化が諸悪の根源のごとくです。

 出版社のマーケティング戦略に乗せられてはいけません。しかし私も中身を読まず、タイトルだけ見ていたら、誤解していたかもしれないところが恐ろしいところです。以前、私も本を出版したとき、自分の考えていたタイトルにはできませんでした。本のタイトルは、編集権の一部で、私が出した出版社では、社長決裁とのことでした。ささやかな抵抗として、日本では関係のない英文タイトルでは、勝手に私が想定していたタイトルで呼んでいます。

 私は「明るい成果主義」を主張したいと思います。

 敗者復活ありのフェアな環境において、貢献した者が報われる世界は理想のはずです。また、失敗に学ぶことは成功体験より学習効率は良いし、自分の弱点を強化して、またチャレンジすればいいのです。生活ができれば、給与が下がってもいいではありませんか。鬱になったり、命を絶つより楽なはずです。

 不向きな職種・職場・企業であれば、辞めて別の職場で頑張ることも正しい選択肢です。もっとも悩んでいるときは、このような発想ができないのは当たり前。日頃から「明るい成果主義」を頭に置いておきましょう。

 次回、成果主義、運用の難しさを補足したいと思います。

「データの罠」 – 口コミ・マーケティング時代 –

「データでもって証明してください。」と誰しも言われたことがあると思う。

稟議資料やプレゼンテーション資料、客観データが入っていると、説得力が増す。これは事実だ。徹底的にデータ検証、データ分析することによって、新たな事実やこれまで見えていなかった事象が見えるようになることもある。

いずれにしてもビジネスにおいて、事実を認識・理解していく過程、意思決定していく場合のデータには大きな価値がある。

一方人財マネジメントの領域においては、圧倒的に客観データが少ない。「情実人事」などと言われるように、顔が見えている人事が多く、上司が部下を知っていることによる適切な判断がなされる。ところが上司が異動してしまったり、付き合いが短い上司と部下だと、双方に大きなリスクが発生するというのがその実態だ。したがって、この客観データを提供していくことこそが我々の仕事であると考えている。

客観データをできる限り与え、最後は「人肌の人事」でマネジメントしていくことを私は常に主張している。私の勤めていた昔の会社では、夫婦で勤めていた社員が少なくなかった。どちらかが地方へ転勤になると、旦那もしくは奥さんの方の希望を聞いて、できる限り一緒に転勤させることを試みる上司が複数いた。ITで人財マネジメントを支援していながら、こんなことを言うのも変かもしれないが、「人肌の人事」があるからこそ人財マネジメントは人間の仕事なのだ。

久しぶりに那須のA温泉に行った。いつもながら良いお湯である。

知人のために宿泊予約を調べようと、ウェブサイトを見ると、ネット掲示板での書き込みがある。この利用者参加型の評価システムは、存在感が日増しに大きくなって、ブログや書き込みコメントを商売にするプロ達もでてきた。Web2.0時代の新しいマーケティングである。

概ね実態どおりの評価が並んでいるが、ある人が酷評している。好き嫌いは当然あるので、それはそれで正しい意見かもしれないが、明らかにこの人温泉わかっていないのではと思われるレビュー内容だった。よく読んでみると、文章もおかしい。

ところがこのメッセージには罠があった。データがきっちり提示されているのである。

温泉の成分分析がグラフで提示されていて、「A温泉はB温泉とまったく同じである。それなのにxxx円は高い。」というのがこの人のメッセージである。

私は栃木県人で、A温泉もB温泉もよく知っている。色々なところを巡るものの、大体毎週出かけるので、行った回数も半端ではない。明らかにA温泉とB温泉の泉質は異なる。肌がツルツルになり、美人の湯とも言われている。お酒のブラインドテストではないが、目隠しして入っても、その違いを当てる自信がある。それぐらい入浴時の感覚は違うのに、データを信じきった人が断言している。またそのメッセージはネットを通じて瞬く間に伝搬していく。

口コミ・マーケティングが「悪い方に作用」すると、また、「データを情報に変化させないまま活用」すると大変なことになる。

「戦略的マーケティング」 – 抜群の投資対効果 –

 ある朝、会社の人と待ち合わせです。

 分かりやすい場所ということで、駅前の某ファーストフード店で待ち合わせすることにしました。時間があったので、コーヒーを頼みました。レジに表示された金額は0円。「いくらですか?」と尋ねても、「0円となっております。ミルクとお砂糖はどういたしますか?」とのこと。

 そのままトレーごといただき、コーヒーを飲みながら打ち合わせ。しっかり場所も提供していただきました。二人の打ち合わせコストは、人件費を除くと0円。場所代、コーヒーとサービス・コストの負担者はファーストフード店ですが、投資対効果を考えた場合、中途半端なサービスでは提供できない価値と効果があります。下手に100円等の低価格で提供するより、宣伝効果は抜群です。もう一人の社員は、「味に自信があるからこそ、できるのですね。」と言っていましたが、確かに「安かろう悪かろう」では、ブランド・イメージを確立できません。

 コーヒー無料化のマーケティング投資は、下記のような効果が考えられます。

– ブランド・イメージの確立
– 味と香りに対するアンテナ・プロセス
– リピート顧客の増加
– 口コミによる宣伝効果
– 他の製品を売り上げるクロスセル効果
– 「無料、少し得した」という気持ちからくる財布の緩み、アップセル効果

 我々のような、コーヒーだけで店を出て行く客は稀で、また店内は満員でした。主力商品ではないコーヒーですが、ブランド・イメージを確立できればロングテールからロフティヘッドへの転換も可能となってきます。しかしそれにしても、投資対効果抜群です。