「日本人の得意技」 – インフォーマル・ラーニング2 –

 前回述べたインフォーマル・ラーニング、実は日本人の得意領域。

 欧米人がやたらにインフォーマル・ラーニングを取り上げ始めたのは、個人主義が進みすぎたことに対するコンプレックスや反省ではないかと思います。

 日本の会社は家社会、日本型の人財マネジメントは家族主義。先輩が後輩を教え、職人は達人の技を盗み、匠の技はコンピュータ制御では達成できない金型や伝統工芸を生み出します。

 ジョブ・ディスクリプションに縛られ、個人主義で「これは私の仕事ではない」と言い切る社会では見かけない光景なのです。

 一方、インフォーマル・ラーニングの弱点は効率の悪さ。計画的に学ぶプログラム体系があると、学びの品質は安定するし、知識移転については漏れが少なくなります。つまり「育つ奴だけが育つ」という落ちこぼれリスクは少なくなるわけです。

 このように整理してみると、フォーマル・ラーニングは管理社会の理論によく似ています。私はいつも主張していますが、「管理」でできる仕事には限界値が存在し、契約書の条項と同じように、全て管理でまかなおうと考えると、非常に大きな管理コストがかかります。全ての場合分けを想定して規則づくりや契約の文言を考えると大変なので、「双方の協議により….」と記述する場合は、曖昧にしたリスクを残す反面、管理コストを下げているのです。また、管理で仕事を進めようとすると、ビジネスモデルの転換といった大きな仕事はなかなか出てきません。

 個人の裁量を活かすエンパワーメントは、この問題を克服するための考え方ですが、インフォーマル・ラーニングも、フォーマル・ラーニングを補完する位置づけで考えていくべきでしょう。

 多くの企業の研究開発部門においてもweb2.0の技術を用いて、ブログやコミュニティの知恵をインフォーマル・ラーニングとして活かしていこうと考えています。

 フォーマル・ラーニングおよびインフォーマル・ラーニングの投資対効果を測定した事例がありましたが、圧倒的にインフォーマル・ラーニングの方が投資対効果は大きいことが示されていました。フォーマル・ラーニングをシステマティックに管理し、インフォーマル・ラーニングを支援する環境を整備して、メンター制度など仕組みづくりをすることが人財開発の最先端です。

 P.S. 昔話を思い起こせば、ダメ・コンサルタントもしくは平均的コンサルタントは、「研修を受けていませんから….」、「まず研修を受けてから….」という発言を繰り返すばかり。知識教育であれば、フォーマル・ラーニングは効果的ですが、応用編は必ずしもフォーマル・ラーニングでカバーしきれません。最も優秀なコンサルタントは、トレーニング・マニュアルを自習し、お客様と会話しながら、自ら試行錯誤を深夜まで繰り返し、トップ・コンサルタントになっていきました。

「背中に学ぶ」 – インフォーマル・ラーニング1 –

インフォーマル・ラーニングが海外で話題になっています。

私が最初にこのブームを知ったのは、2007年の米国ラーニングベンダー各社CEOのインタビューでした。各CEOが、ステレオタイプの見本といった感じで、インフォーマル・ラーニングとコラボレーションの重要性を述べていました。

 その年のASTDやSHRMの年次大会でも、色々なセッションで取り上げられたようです。さて、そのインフォーマル・ラーニングとは何でしょう?

 フォーマル・ラーニングとは、計画されたトレーニングや全員が受けるテスト、必読の書つまりリーディングアサインなどです。それに対して、インフォーマル・ラーニングは、「背中に学ぶ」というか、公式なトレーニングではない場で学ぶことを指しています。経験と表現してしまうと定義の範囲が広すぎますが、正式なトレーニングでは得られない学びの項目は山ほどあります。

 身近な一例をあげると、我々が社内の最新情報を得るとき、各国のコンサルタントやマーケティング部門もしくはトレーニング部門のトレーナーが、インターネット経由の仮想のセッション、つまり遠隔での擬似クラスルームを設けてくれます。このクラスルーム自体は、フォーマル・ラーニングの一部ですが、後にこの録画セッションを自発的に聞いたり、またこのセッションの中で他の参加者が投げる質問や意見は、インフォーマル・ラーニングに繋がってきます。

 「お馬鹿な質問しているなあ」と感じるときもありますが、「前提知識がないと、このような発想をするんだ」とか、「その意見はごもっとも」と納得することも多く、知らないうちにより深い学びに繋がっていきます。教科書よりも、それらのメッセージの方が印象に残り、生きた学びとして定着していきます。

 次回は、インフォーマル・ラーニングで気づいた点とその効果、人財マネジメントとの関連などを書いてみます。