「閉鎖的な日本と経済成長」

 著名なエコノミストを交えた講演と意見交換会の場がありました。

 テーマは「今年の日本経済」。多くの「社長」肩書きを持つ方々が参加していましたが、緩い結論としては、「あまり上向きの要素はない。」と言えるのではないかと思います。

 問題は、色々な点において海外依存が多い割には、閉鎖的な行動を取る日本です。自戒も含め、鎖国精神DNAが染み付いた日本人を感じます。最近では、空港関連企業への出資規制を行うというニュースがありました。安全上の問題とコメントしていますが、どう考えても論理的な結論であるとは思えません。世界標準から外れ、数少ない例外国となってしまった携帯電話市場、i-phoneも利用することができず、携帯電話市場においても無駄な個別化が進んでいます。

 毒入りギョーザ事件があっても、中国依存から脱却することは不可能。ガソリンが高くなっても、石油の99.6%という海外依存率は変わらず、景気の動向も海外の景況に大きく影響されます。日本という国は、海外に依存せざるを得ないのです。

 このような状況の中で、日本経済を復活させるには?

 資源の無い国が売れるものと言えば「人」、そう人財です。といっても世界に売れる日本人は多くありません。手に職を持つ技術者が韓国や中国で重宝されるという例外を除いて、グローバル・プレーヤーはごく僅か。本当は、この「人」が答えであって欲しかったのですが、どうもグローバル経済の中では無理があるようです。ダボス会議に参加した人が、日本人の発言の少なさに嘆いています。

 自信を持って、語れるのは「日本のアニメ」。これは人気があります。リアル過ぎて、規制対象になっているものもありますが、上手に利用していけば、外貨を得ることができます。ある知人は、欧州で日本のアニメを広げることを試みています。

他には、温泉や旅館と景色、つまり日本ならではの「くつろぎ」。このくつろぎは日本のブランドになります。以前にも書いたように、日本人の「もてなし」つまりサービスと温泉ブランドが結びつけば、強力に売れる物になります。銀座と六本木は、今や中国からのツアー客で賑わっています。中国の富裕層が銀座で落とす金額は半端ではありません。日本の美、温泉とサービス(もてなし)によって、海外の富を呼び込めば、戦略的な観光立国にできると思います。

 P.S. 
「金利」「為替」「株価」、この3つの中で、どれが一番予測することが難しいでしょうか?エコノミストに聞いてみました。一番簡単なのは、「金利」。これは人間が決めますからね。その次は、「株価」。一番難しいのが「為替」だそうです。その理由は、決定要素が一番多いからというものでした。「為替」に手を出している方、ご注意を!!

「格差社会」 – モチベーション・マネジメント –

 久しぶりにイギリスを訪れました。トランジットでのヒースロー空港を除けば、実に20年ぶりです。

 ロンドンの市内は大きく変わったとは思えませんでした。大きく変わったのは物価。一言で言えば異常です、日本の給与では生活できません。逆に発想すると、日本の国力が衰えた証拠であり、GDPが18位になったのも納得できます。来年は、いよいよOECDの中で下流層入りです。日本の経営者の方々、グローバリゼーションに取り残され、「失われた20年」になりつつあることに気づいているのでしょうか?

 しかし、地下鉄は一駅でも1000円、タクシーはあっという間に5000円という物価では辛いものがありますね。米国の地方から来た人は、3倍の物価と言っていました。展示されている中古車の価格表を見ても、いわゆる高級車の部類は、1000万円を超えるものばかりで、街中が小さい車で溢れる理由は、道の狭さだけではありません。不動産価格も驚くばかり。どうやって、みんな生涯賃金レベルの家を買えるのでしょう、不思議でなりません。今のイギリスは、我々外国人からみた物価の高さだけではなく、イギリス国民の賃金がそれほど上昇していないことも大きな問題になりつつあるそうです。

 宿泊したホテルの場所はやや郊外のSunningdaleというところです。王室を現す「ロイヤル」が付くだけあって、ウィンストン・チャーチルが利用した由緒ある歴史を感じさせるホテルです。ウィリアム王子も近所に住んでいるとのことでした。ゴルフの世界では有名な、’The Open’が開催されるだけあって、アーニー・エルスやコリン・モンゴメリーの豪邸が美しいゴルフ場の中に佇んでいます。実質1日の滞在なので、残念ながらゴルフどころではありませんでしたが。

 上記のような場所や歴史を説明してもらう中で感じたのは、格差社会と階級。差別は明らかに存在しているのです。「庶民」は、別の民族のような感覚で説明されます。閉じられた世界の中で、生活レベルに枠をはめられてしまうと、それが当たり前になり、差別ではなくなる、あるいは差別を感じなくなるのかもしれません。レベルが上の側も、下の側も閉じた世界の中で受け入れてしまうので、彼らにとって差別ではないのでしょう。

 ビジネスの世界における格差、意識としてはあからさまではなく、かなり「マシ」だと思いますが、この階級意識は逆にモチベーション・マネジメントをし易くしていると思います。なぜならば、職種や職業、職務レベルにおいて格差があること自体に疑問を感じないからです。格差があっても、それは別の世界のことと割り切れば、悔しさも羨望も出てきません。悪く言えば、あきらめに近い感覚ではないでしょうか。私がモチベーション・マネジメントの易しさと言っているのは、閉じた世界の中においてマネジメントしていけばいいからです。

 「バスに乗り遅れたくない性格」の日本人。「格差がないこと」がおかしいと感じる国民性とは逆に、「格差がないこと」に安心する農耕民族においては、こちらの方が難しいモチベーション・マネジメントが存在していると思われます。最近は、「差」がでてきましたが、一昔前は、同期入社で給与に差がつくと、複雑な気持ちになったはずです。「差」が付くと妬む文化の根っこはここにあるのかもしれません。

 P.S. 
トイレで用を済ませると、ペーパータオルを用意して、身なりの良いおじさんが待っています。トイレに入った瞬間から水道の水を出しっぱなしにして(節約して欲しいです)、手洗い石鹸を勧め、これはチップに対する大きなプレッシャー。俄かジェントルマンにならざるを得ず、ポケットの小銭を気前よく渡していましたが、イギリスのポンド、コインでもソコソコ大きな価値があります。色々な種類があるので、幾らかわかっていませんでしたが、後で1ポンドや2ポンドのものだったと気づくと、ペーパータオルのおじさんに、2回も1000円以上のチップをあげていました。経済大国の日本が健在であることに貢献?イギリスに渡航する前に、コインの学習をしておきましょう。(当たり前?)

「自律型組織」 – 機会と成長 –

 丁度10年前、SAPジャパンで独立した社内カンパニーのリーダーになる機会を与えられました。人事モジュールの拡販とソリューションの提供を目的とした社内カンパニーです。ソニー等が先鞭を切って導入した組織形態で、持っている機能にもよりますが事業部制に近い概念の組織です。

 社内カンパニーを設立した理由は大きく2つ。

– 意思決定を素早く行い、直ぐにアクションを取って行くアジリティある組織にする
– 若い人財に権限委譲し自律型社員を育成する

 2つ目の理由は、当時の中根社長から直接聞いていませんでしたが、その社長が新人へのスピーチを行った際に「30歳代のカンパニー・プレジデントを創りたかった。」と話をしていたそうです。完全主義を超える厳しさで、鍛えてくれた中根さんですが、私と、若い組織を育てようと考えてくれていたのでしょう。

 「人の採用と配置」、「マーケティング」、「独自ソリューションの開発」、「戦略提携」など、勝手に色々なことをやらせてもらった。今思えば、ほとんど中根さんに相談したことはなかった。怖いもの知らずという年代であったかもしれないが、その背景にあったのは自己責任という気持ちが大きかったと思う。チームメンバーもカンパニー成功のために必死で働いてくれました。

 結果は官僚的な組織とは正反対。失敗も数多くしましたが、自分で判断、自分でアクションできる若い人々が多く育ちました。これはやはりこの「機会」を与えてもらったことが大きな成功要因です。優秀な人は山ほどいますが、多くの人々はこの成長の機会を与えられていません。みんなの素直な目線が同じ方向を向いていて、各人が自分の良さを発揮していれば、成果は必ず出ます。しかも自律型の組織は、行動が早いのです。

 P.S.
年末にこの組織の一部メンバーが集まりました。参加できなかった人も含め、多士多才。新卒だった人が立派に成長し、今では中堅、幹部として色々なところで活躍しています。中には若いながらもトップパフォーマーとして全社から表彰された人財もいます。やはり人の成長、組織の成功は、人々を信じることから始まりますね。

「米国人財レポート(2)」 – 人財マネジメント2.0(2) –

 皆さんにとって、「良い企業」というのはどのような定義になるでしょうか?

 ある金融サービス大手の方が話していました。彼は大学を卒業するとき、どんな企業に就職すればいいかを母親に相談しました。彼女は、2つの選択基準をアドバイスしたそうです。

– 雇用主がよいこと
– 良いリタイア(引退)ができること

この「良い引退」には色々な意味がありますが、不安なく退職後を過ごせることです。これは必ずしも1社における終身雇用での退職を意味するわけではなく、キャリアアップを経て、最後に良いリタイア(引退)を迎えることが重要です。現実に、この話している人も6つ目の会社/仕事であると言っていました。ちなみに平均的アメリカ人は、11の仕事を経験するそうです。

1つの会社で長年勤め、退職日を迎えるイメージは比較的し易いのですが、複数の会社で勤めながら最後に自分のリタイアをイメージすることは、意外と難しいものだと感じました。日本だと、「良いリタイアを迎えること」が会社選びの基準になることは結構少ないと思いませんか。「安定している」とか、「企業年金がしっかりしている」ということは、それに近い発想だと思いますが、若いときにリタイアメントを意識することはなかなか難しいです。

上記のような感想を持った帰りの飛行機の中、隣は上品な初老の女性。これからタイに行くらしい。世界各国を旅行しており、つい2ヶ月前にリタイアしたとのことでした。大学でスペイン文学を教えていたらしく、亡くなった旦那様も大学教授だったとのこと。のんびり旅行、余裕があって羨ましい限りですが、利子だけで食べていけると言っていました。教員の年金制度も恵まれているらしく、おまけにニューヨークの5番街の近くのアパートメントで暮らしているそうです。

羨ましがったら、「まだ遅くはない、自分も40歳代半ばから本格的に準備をし始めた。あなたはまだまだ若いんだから、きっちり計画することが大切。」とアドバイスされました。

最近銀行に行ったとき、『団塊世代のリタイアメント白書』というパンフレットが置いてあったので、思わず手にとりました。そこには「退職後の6つのリスク」が書かれています。インフレリスクや医療・介護のリスク、これらは理解し易いのですが、「そうかー」と思ったのは「長生きリスク」。長生きもリスクなんですね、リタイアメントを設計できていない人にとっては。

「米国人財レポート(1)」 – 人財マネジメント2.0(1)-

ある人財開発企業のユーザー会がサンフランシスコで実施され、参加してきました。いくつか気づいた点をレポートします。

 このユーザー会、参加者は600名程度ですが、人の育成に力を入れている一流企業ばかり。またその中でもCLOや人財育成の責任者が多く参加するので、世界の人財開発の流れがよく理解できます。70のセッションは、素晴らしい事例の集まりでした。

 私が聞いたメッセージの中で、印象に残ったものをサマリすると次のものになります。
– スキルを持った労働力は不足し、タレントがフォーカスされる時代になった
– 中国とインドの存在感が欧米に認知され始めた、日本はもはや視野から外れ始めた
– コミュニティ無しに、組織の成功はない
– エンゲージメントの重要性が認識された
– 「学習」は企業にとってのDNAである
– ハイ・パフォーマンスの文化とビジネスとしての成果が求められる
 

 社会の構成、働き方が大きく変わりつつあります。

在宅ワーカーが当たり前になり、会社で過ごした時間より、貢献した成果が求められます。一旦退職した人が別のスキルを持って、また会社に入ってきます。(ブーメラン・ピープルと名づけられていました)いわゆる海外版団塊の世代が退職し、子供のときからパーソナルコンピュータを与えられた世代が社会にでてきます。数年後、世界で一番英語を話す国民は中国人になってきます。コラボレーションはトップダウンではないところから生まれ、そのコラボレーションを支えるのはWeb2.0の技術。

「社内SNSを導入していますか?」という問いに対して、Yesと答えた企業はまだ少数派であったが、インフォーマルラーニングやコラボレーションは無視できない流れと言えます。B.G.これは’Before Google’というキーワードで、インターネットというとんでもないデータベースの宝庫と検索エンジンによって仕事のあり方も大きく変わりました。人財マネジメントはより複雑になりますが、「見える化」とタレント重視の方向性は間違いありません。

P.S. 
セッションででてきたメッセージの1つ。「2010年、結婚する人の8分の1はネットで知り合ったカップル」と予測されています。

これは実際最近あった出来事ですが、ある都内の高級ホテル。最上階のレストランで食事をしていたら、隣は妙齢のカップル。若者という時代は二人とも通り越しています。高価な身なりに、見栄の張った会話。席のレイアウトが近いので、嫌でも会話が聞こえてくるのですが、どう考えてもネットで出会い、お互いを確かめ合っている雰囲気。「私は甘えるタイプ、あなたは?」という感じです。二人とも財産がソコソコあることを自慢しています。この後どうなるのか?気になってしまい、食事が終わってもなかなか席を立てません。隣では「もう一杯飲んでもいいですか?」が繰り返されています。見栄の張り合い、とっても疲れます。最後は馬鹿らしくなって、隣のカップルの顛末を追いかけるのを諦めましたが、B.G.では考えられなかった事象ではないでしょうか。

富士ロックフェスティバルというイベントがあります。知人のミュージシャンは、車で出かけますが、一人だとガソリン代と高速道路料金がもったいないので、SNSで一緒に行く人を探すそうです。驚くのは、携帯電話でSNSにアクセスすると、あっという間に同乗者が集まって、行きも帰りもバラバラの人々で仲良く往復したとのこと。

ダボス会議でも取り上げられるWeb2.0のパワー。コラボレーションは人財マネジメントにおいても無視できません。